映画としては短いがムービーにしては長い『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』鑑賞。

 
物語は、ブルックリンで負け犬と蔑まれる配管工のマリオが、迷い込んだ異世界でピーチ姫を助けながら自身の存在意義を見つけていく。という成長譚の王道展開である。
だが、本作にとって「物語」は必要最低限の「骨」でしかなく、メインはこれでもかと詰め込まれた『スーパーマリオブラザーズシリーズや『マリオカート』『ドンキーコングなどへのオマージュだ。
 
マリオやピーチ、クッパを始めとしてクリボー、ノコノコ、ヘイホーなどなどが劇場用映画のハイエンドなクオリティのCGで再現され、おなじみの音楽や効果音がオーケストレーションされた音数の多い豪華なサウンドで、それぞれ大幅にブローアップされている。
 
本作上映前に流れる任天堂のイメージ・コマーシャルは、あと少しのところで失敗したプレイヤーが悲嘆にくれ、怒鳴り、枕に顔を沈めて叫ぶ場面と、ようやくクリアした歓喜モンタージュである。これはゲーム:スーパーマリオシリーズの特性「たいがいの人はクリアするために同じ面を何十回もプレイする」という体験を表したものだ。この体験のあるなしで、映画:マリオへの共感度は大きく変わってくるだろう。
劇中のマリオはピーチに課せられたトライアウトやドンキーコングとの対決で、何度も挑戦しては失敗し、独自の攻略方法を見つけてブレイク・スルーする。この場面は実際にゲームをプレイしたことのある人にとって、大いなる「あるある」だ。
 
要はサブテキストとしてマリオタイトルのゲームをプレイし、クリアするために同じ面を何十回もプレイした体験が前提の作品なのである。
 
なので、私にとって本作を正しく評することはほとんど不可能である。なにしろスーパーマリオはほとんどプレイし、クリアもしているからだ。私にとって映画『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』は最高のご褒美のような“ムービー”であった。