ボディ・ホラーとしての『サブスタンス』

 

【ネタバレします】

 

この作品絡みで大小さまざまな炎上が立ち上がっている。しかし、鑑賞後なら「そりゃそうだろうよ!」と思わざるをえない。

なんというか、炎上するべくしてなってるし、炎上させてる人もしてる人も「ははーん。そうなると思ってた。」と、タバスコが意外にたくさん出てきてビシャビシャになってしまったピザを口に入れて「うん、辛い!」と言っている感じ。

 

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本作は本来「ボディ・ホラー」とジャンル付けされるべき作品だ。

「ボディ・ホラー」とは肉体が変形したり欠損したり、言ってみれば「身体が取り返しのつかない状態になる恐怖」のことだ。

有名作だと『遊星からの物体X』や『ヴィデオドローム』『ソサエティ』とか。近年だと『TITAN/チタン』や『ムカデ人間』が「ボディ・ホラー」になる。

無論『サブスタンス』の「1つの人格で2つの肉体を交互に使う」という基本設定もその所以ではあるが、特にラストのモンスター“エリザベ・スー”の存在こそ本作を「ボディ・ホラー」に相応しい作品たらしめている。

「若い美しさ」に囚われたエリザベスの悲劇や芸能業界のルッキズム、ひどい男尊女卑は“エリザベ・スー”の存在を以ってして、人々の関心を強く惹きつけている。

 

ただ「ボディ・ホラー」としての『サブスタンス』が残念なのは“エリザベ・スー”に全体像が無いことだ。

正面の崩れたスーの顔や大小さまざまな無数の乳房。唐突に自分の肉体を噛みしめている歯。身体はコブのような塊で、そこから2本の腕と2本の足が生えている。背中には、エリザベスの顔が、顔のバランスだけは美しく保ったまま、しかし絶叫した表情のまま張り付いている。

しかし、たっぷりとしたプリーツのドレスを着ていることもあり、全体像が現れるのは安定化出来ずに腕から大量の体液を撒き散らすあたりで、画面は赤く染められコントラストを失い、ディティールが見えなくなってしまう。

 

名作ボディ・ホラーには例えば『遊星からの物体X』の外れた頭にカニの足と目玉が生えて歩き回る“ノリス・シング”や『ザ・フライ』で人間とハエが融合した“ブランドル・フライ”など。非常にアイコニックな存在がある。

『サブスタンス』にはそれらのような“フィギュア映え”した“エリザベ・スー”が存在しない。

 

ただ、そんなフィギュアジェニックな“エリザベ・スー”の不在こそが、アカデミー賞ノミネートや、カンヌでの脚本賞受賞をもたらしたのかもしれない。

 

見事な造形の“エリザベ・スー”が登場すれば、人々の注視は“エリザベ・スー”へ注がれ、巧みな映像表現や極端にセリフの少ない脚本などは「ホラー演出を支える素材」へ格下げされてしまっただろう。芸能業界のルッキズムやひどい男尊女卑などの痛烈な皮肉もしかりだ。

ただ、見事な半魚人を出しながら、しかもDVモラハラ差別主義男に鉄槌を下し、さらにアカデミー作品賞をかっさらった『シェイプ・オブ・ウォーター』の例を見るに、やはり“エリザベ・スー”は少なくともロブ・ボッティンリック・ベイカー、もしくはギレルモ・デル・トロにデザインしてもらえば良かったのではないだろうか?

 

シンメトリックで美しくグロテスクな“エリザベ・スー”の姿を夢想してやまない。