悪いことしましョ!

職場が新宿で、事務所への往復にビックロティファニーの代理店が入ったビルの隙間を抜ける。その場所で、最近になって、ちょくちょく気味の悪い情景を見かける。

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土地勘の無い人に少しだけ説明すると、くだんの道は、一応車道でもあるんだけど、ほぼ歩道として機能している。道もアスファルトむき出しでは無く、ブロックをタイル状に埋め込んだ、いかにも歩道然とした見栄えだ。しかし、この「ほぼ歩道」にも一応信号がある。新宿通りを挟んで伊勢丹駐車場へ続く道とで十字路に見立てた、アリバイ的な、ほとんど機能していない信号だ。
ところが、この信号を守る人がいるのだ。
もし車が来たとしても車1台がゆるっと通れる、2台ならキッツキツな狭い道路だ。ピョっとひとっ飛びすれば端に避けられる。それ以前に車が来てないし、来る気配も無いし、歩道っぽく利用されているから信号のある横断歩道以外のフローズンヨーグルト屋の前あたりには人がウロウロと歩いている。それなのに、横断歩道の信号を守って待ってる人がいるのだ。それも結構な人数が。
 
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今更ながら。カナザワ映画祭ブラックスプロイテーション映画につけた差別語タイトルについて。
まず、あの邦題はブラックスプロイテーションとは何たるかを全く理解していない『新感染』とか『バス男』などと同様のダサ邦題だというのは先に言っておこう。ダサい。クソだせえ。
で、差別語をタイトルに使用して良いか?
私は良いと考える。ただし、叱られるのもセットで。
表現の自由」というのは無制限であるべきだ。無制限、と言うからにはもちろん世に蔓延る嫌韓本も「表現の自由」の元、発表ないし発売されてしまうのもいたしかたない。ただし、バカ丸出しな本を出して批判されると「表現の自由の抑圧だ!」という百田ナニガシみたいな人の形をしたウンコとしか思えない、トイレに流していないのが不思議な物体のトンチンカンさ加減には腐った藻の臭いのため息を吹きかける他ない。
マヌケの大吟醸みたいな本を発表して良い「表現の自由」と同等に、マヌケ界の八海山を指標する本を批判する「表現の自由」も存在する。というようなことをイチイチ言わないと解らないのがレイシストという純度100%特濃バカの特徴なのであろう。
では、カナザワ映画祭の、あのタイトルをつけた主催者(たぶん、1度ならず何度かお会いしていると思うのだが、ごめんなさい。顔も名前も思い出せないです)に黒人を差別する意図があったか?
それは無かったであろう。おそらく、禁忌的な言葉になっている「クロンボ」を、禁忌的だというだけで文脈も考えずに露悪的につけた、悪フザケだ。
 
私は悪フザケが好きだ。
 
ただし、嫌韓本と同様に叱られるのもセットで。叱られるのは受け止めよう。受け止めるベキだ。
しかし今の世の中、「悪フザケ」が「悪フザケ」として受け止められない時代になっている。
 
たとえば「ナチス」。セックス・ピストルズで唯一死んだメンバー、シド・ビシャスハーケンクロイツのTシャツを着ていた。知る範囲でシド本人にナチス的な思想(ないし、いかなる思想)を持ってはおらず、おそらく「世の中の人がもっとも嫌っている象徴」としてハーケンクロイツを着用していたのだろう。つまり「パンク」だ。
今ではランシドみたいなクリーンで健康的なバンドもいて、かつての「パンク」と今の「パンク」には意味の齟齬があるだろう。シド(及びピストルズ)の「パンク」とは「悪フザケ」だ。
みんなが嫌がるから、怒るから、ハーケンクロイツのTシャツを着て、ろくすっぽ楽器も出来ないのにバンドを組んで「女王陛下ってな人じゃねえなwww」とか「俺はアンチクライストアナーキストだ! 道行く人を殴りたい!」と歌っていたのだ。
しかし、今では「コレぞ正義!」とばかりにハーケンクロイツを掲げ、外国人排斥をガナる、アソーナニガシとかタカスナニガシといった納豆菌を入れ忘れたまま腐らせた豆みたいな奴らがソコソコの人数いるのである。
これでは全くコチラの立つ瀬が無い。「悪フザケ」とは、叱られるようなことだという共通認識が無ければ成り立たない。叱られるようなこと、だからこそする。
多くの人がカナザワ映画祭主催者に叱責の声を上げた。それはそれでしょうがない。だって単なる露悪なんだから。叱られるのあたりまえでしょう。
しかし、主催者を叱責した多くの人は、車の通らない横断歩道の信号を守るように、「ダメだからダメ」というだけの理由で、怒っていた気がする(もちろん全員ではない)。
もちろんダメなんだけど、たとえば小説の中に「人種差別主義者で学の無いカッペ」という設定を持った人物が黒人を黒人だというだけでナジるセリフを言うとしたら、それは間違い無く「クロンボ」だ。
差別語ではあるが、使われるベキだ。
それは主催者本人もブログで書いているのだが後に続くのが「ゴムを付けていたので浮気ではない!」みたいな、牛が夢中になるくらいショッパい言い訳でどーしょーもない。
では『The Black Gestapo』や『Brotherhood of Death』『The Thing with Two Heads』にそれぞれ「クロンボ」呼称を含んだタイトルが相応しいのか?
それは実際に自分で観てから、自分で判断して欲しいところだ。全部ソフトを持っている私としては「ダメ」の焼きごてを押し付ける他ないのだが。
それ以前に致命的にダサいんだけど。
あと、未公開ブラックスプロイテーションなら突き抜けた『Black Shanpoo』や『Soul Vengeance』。ゾンビ映画では珍しくブードゥーゾンビが登場する『Sugar Hill』。良作な『Willie Dynamite』。近作の『Black Dynamite』とかいくらでもあるのに、なんでコレ選んだかね? とは強く思う。
そんなことを歩道化している道のすぐ脇にある横断歩道の信号を律儀に守っている人を見かけて思ったのだった。
モチロン、青になった瞬間に歩きだそうとする人の前で急に立ち止まりながら。