正義の暴力 〜『ダウト〜あるカトリック学校で〜』シスター・アロイシスの暴走〜

 
カトリック学校の校長シスター・アロイシスは校則を破った生徒には容赦無い罰を与えるほど厳格な信仰者であり、温和で進歩的な考えの教会の司祭フリン神父のことはもちろん疎ましく思っている
そんな中、フリン神父と生徒の少年の性的な関係を匂わせる出来事の報告を、若い教師のシスター・ジェイムズから受ける。アロイシスはフリン神父を追求し「以前いた教会のシスターに当校への転任の理由を聞いた!」とカマをかけ、遂にフリン神父を学校から追い出してしまう。
 
さて。劇中フリン神父が本当に少年と関係を持ったのか、以前の学校からの転任理由が子供に対するレイプだったのかは明確には描かれていない。ただ、実話を元にした映画『スポットライト 世紀のスクープ』でも描かれている通り、カトリック教会聖職者による子供のレイプと、教会の隠蔽体質はよく知られており、フリン神父は「濃いグレー」に印象付けられている。
その上で、作品はアロイシスに焦点を合わせていく。
 
アロイシスは厳格にすぎる容赦ない人物として、観客に愛されないような人物設定が施されている。
少年の母親がフリン神父には感謝しており告発する気も無いし、大ごとにもして欲しくないと懇願しても、アロイシスはそれを無視する。加えて以前の転任の理由を聞いたというのもウソだ。敬虔なアロイシスは根拠なく信じた疑念のために「十戒」を破ったのである。
しかも「不正を追求するのは神から遠ざかる行為だが、その価値がある。」と詭弁まで弄する。
 
しかし、結局教会側はアロイシスの話を信用せず、フリン神父は新しい赴任先で主任司祭に昇進している。訓戒を破りウソをついてまで追放したのに、結局誰にも信用されなかったのだ。
アロイシスは、正義を為すためにフリン神父を追放をしたのか、フリン神父がただただ嫌いで追放したのか、自分に対する疑い(ダウト)が、自分で拭えないと泣き崩れる。
 
アロイシスは非常に強い信仰心があったからこそ、自分自身を疑いの目で見ることが出来た。そして、泣き崩れてしまう。
もしもアロイシスに信仰が無かったら。信仰の対象が自分自身(ナルシスト)だったら。さらに邪な目的があったら。
現在の日本では、そんな醜い光景を安易と目撃できる。