幸せに、まだ慣れない

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一昨年の冬からネコを家に迎え入れた。
 
お腹に白い差し色がある黒猫。女の子なので逞しく育って欲しいという願いも込めて『ブラック・パンサー』の屈強な戦士「オコエ」の名前をいただいた。
しかし、オコエはネコタワーの2階(40cmほどの高さ)から飛び降りるのも躊躇してから降りるような恐がりだ。
 
家の中でも、まだ慣れていない場所がある。家に来たばかりの頃は里親さんが用意してくれていたケージの中でほとんどの時間を過ごしていた。ケージを取り払った後は、ケージを置いていたリビングの中だけをウロウロしたり、テーブルの影で寝ていたり。
 
今は家人の書斎とリビングがテリトリーだ。たまに寝室に入るが、オコエにとって寝室はチャレンジングな場所らしく、トイレ後のハイになって駆け回る時に勢いをつけて飛び込むか、そーっと、そーっと、様子を伺いながら入って、それでも1分もしないうちにトコトコと出てきてしまう。
 
ほぼ毎日仕事に出かける私にとって、オコエに接するのは朝の身支度をしている間と、帰ってきて晩酌をして、ゆったりと休んでいる間だけ。
しかしオコエは、仕事から帰ってきた私の顔を見るなり隅っこやテーブルの影に隠れてしまっていた。撫でようと近くと後ずさりして固まっていた。
休日でも、私は休みが少ないので大概は映画を観に外へ出てしまう。さらに、隔週の休日にオコエの爪を切るのが私の役目なので、昼間に家にいるだけで爪を切らない週でも警戒されて私の姿に怯えて隠れてしまう。
 
一度、私の姉がオコエを見に来た時には、知らない人だ!っと家人の書斎に飛び込んで篭りきりになってしまった。
 
それくらい臆病で恐がりで人見知りなオコエが私に慣れてくれたのは、今年に入ってからくらいか。
 
今では仕事から帰ってきた私を見てもフフンと見上げて、寝っ転がったままだ。撫でようと近づいて、手を伸ばし背中のあたりを撫でていても、気に入らない時以外はフアアとあくびの一つもしながら撫でさせてくれる。気に入らない時は噛む。
 

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私が朝起きてリビングのテレビをつけ、目が覚めるまでボンヤリしていると、寝床にしている書斎のクッションからトコトコと歩いてリビングに入り、伸びをして、ヒャーンと一鳴き挨拶をすると、私の尻に自分の尻をつけて座り込んでくる。
オコエ〜と呼ぶとこっちを見る。ニヤニヤしつつトイレに立ち、帰ってくると扉の前で待っている。私を見るなりヒャーンとまた鳴いて、部屋の真ん中でさぁ撫でろ! とばかりに寝転がる。
ハイハイハイと撫でてやるとゴロゴロとノドを鳴らす。ゴロゴロ言ってるんだからと撫で続けていると、唐突に噛み付いてくるので、最近は途中で止めているが、撫で足りないとまたヒャーンと鳴く。
頭を撫でてやるとグイーンと手に頭を押し付けてくる。私の周りを歩き出して腕や腰に頭を押し付けて、またゴロリと寝転がる。
 
仕事のために身支度をはじめ、終わる頃にごはんをあげる時間になる。スチールのお椀を持ち上げるとメシだメシだと近づいてくる。キッチンにはオコエが入らないように、腰高の扉のケージを設置しているのだが、お椀に水を入れたり、カリカリを入れていると、そのケージを頭で押してくる。
ミャーンと鳴く。ハイハイ、いま準備してるでしょ?と、解らないだろうと思って答える。たまにヒャーンと答える。それが可笑しくて毎回答える。
 
準備が出来てお椀を持ってケージを開けると、こっちを見ながら歩き出し、お椀を置く台から少し離れた場所にゴロリと寝転がる。さっきまでメシだメシだと騒いでいたクセに。
 
この行動は「アンタの用意したメシなんか、すぐさま飛びついて前向きに食べようなんて気が起こらないんだよ!」という意味らしい。しかし、転がっているのだからと撫でてやる。またゴロゴロとノドを鳴らす。
撫でられ飽きると歩き出し、お椀に向かい、食事を始める。
 
ガツガツと食事をする後ろ姿を眺めている。1分ほどで食べたい分は食べて、残りはおやつにしているらしい。
食後は遊べ! とオコエが目を丸くしてネコジャラシを凝視しはじめる。そろそろ出かけないといけないのだが、少しだけ遊んであげる。ネコジャラシを軽快に振り回すと、後を追って走りまわる。寝転がってネコジャラシを捕まえようと手を叩くような動作をするのが、漫画表現の「アワアワしている人」みたいで可笑しい。
 
いよいよ、もう出かけないといけない。ネコジャラシをしまい、じゃあね、行ってきますよ! と言う。たぶん遊び足りないという意味でこちらを見上げている。リビングの扉を閉めて、玄関を出て仕事に向かう。
 
毎朝やっていて、ほぼルーチンになっているのに、まだ慣れない。
毎朝「わぁ、家にネコいるよ!」と感嘆している。
いつか飽きたりするのだろうか?