求めすぎてる? 僕。 ~Joe Talk 2~

f:id:samurai_kung_fu:20150218142959j:plain

ふたたび常套句について。
 
小学生の頃。友人らとバスに乗って駅前まで遊びに行った時の話。最後部の長椅子の端に普通のオバサンが座っていた。身なりや態度も別にとりたてて特別なワケでなく、最大公約数的な少し太めな「オバサン」。その横に我々がガヤガヤと座った。そのオバサンの隣には友人の青木くん:アオちゃんが座った。移動中もとりたててトラブルめいたことも無かった。駅前に到着してバスから降りるとアオちゃんが「あのババア、安っぽい香水の匂いをプンプンさせやがって!」と声を荒げた。
温厚なアオちゃんが声を荒げたことと、香水の匂いで価格を嗅ぎ分けたことに感心し、強く記憶している。アオちゃんは、熱狂的なジャイアンツ:長島ファンで少年野球チームのコーチも務める父親の元で白球を追っていた、最大公約数的な「小学生」だ。むろん、そんな小学生が香水を嗅ぎ分けるワケも無く、おそらくお父さんが吐いた愚痴をマネしたのだろう。
 
私は香水の匂いが好きだ。
 
映画館でキャバクラの同伴と思わしき派手めな女性がいると、ついクンクンと鼻をならしてしまう。また、太り気味のおばさんの甘い脂のような体臭とまざった香水の香りも好きだ。女性に限らず、相撲取り特優のびんつけ油の匂いも好きだし、新宿の呼び込みホストがつけている獣じみた強い香りも好きだし、六本木にうろつく身ぎれいな黒人男性がつけているバニラ味の焼き菓子みたいな香りも好きだ。
なので、「香水がくせえ!」という言葉にまるで共感できない。
好きな匂いと嫌いな臭いがあるのは理解できるが、特に男が言う「香水がくせえ!」には小学生のアオちゃんめいた、聞きかじった常套句のように思ってしまう。
なんとなくの偏見なのだが、「香水がくせえ!」という男はスッピンとナチュラル・メイクの差も解っていなさそうだし、香水と石鹸やシャンプーの匂いも嗅ぎ分けてはいなさそうなイメージがある。
 
 
これと似た思いは「電車の中で化粧をしている女が見苦しい」と揶揄する常套句にも抱く。私にはその状況を揶揄できないし、揶揄する意味が全く理解できない。
 
例えば私が会社に行く朝は7:45に起きて、15分は何をするでもなくテレビをつけて目が覚めるのを待っているだけ。8:00を回ると服を着始め、催せばトイレを済ませ、ボーっとしていると、そろそろ出ないと遅刻をするからと8:20頃に家を出る。顔も洗わないしヒゲを剃る習慣も根付かず、寝ぐせもつき放題。これで穴の開いた服でも着ようものなら、見た目から垢じみた臭いが漂いそうな体たらくだ。たまに着ているけど。
女性はそうはいかない。お化粧をして、髪をまとめ、常に身ぎれいにしている。夏は日焼け止め、冬は保湿と、肌の調子も考えているようだ。当然その準備のための時間も必要だ。私のように出掛ける直前に起きて、昨日脱いだままの服を着て出掛けるのとはワケが違う。女性たちは、準備の分早く起きているワケだ。
 
私の職場だと仕事に男女の差は無い。しかし、来客時にお茶を出すのは、少し前まで女性社員の役割として分担されていた(もう止めさせたけど)。他にも、やらなくてはいけない仕事の絶対量が多い女性に、朝出かける前に、さらに身ぎれいにしておく時間の分早く起きろとは言えない。
 
そして、これもまた個人の好みの話だが、私は化粧をしている女性を見るのが好きだ。手品のタネを明かしているようなワクワク感があるし、出来あがった顔を「ハイ!完成!」とばかりにコンパクトをくるくる動かして確認する様子も心地よい。完成したばかりの顔は、戦場に赴くインディアンのウォーペイント同様に見ているこちらをも鼓舞してくる。
「準備をしている様子を人様に見せるんじゃない!」というのが、電車の中で化粧をする女性への揶揄の理由であろう。しかし、言っている当人は、例えば男なら及川ミッチーのように美しいのだろうか?
 
 
と、ここまで書いて気付いたのだが、電車で化粧をする女性たちは電車内にミッチー級の身ぎれいな男が確実にいないと判断しているのではないだろうか?
もしくは、電車内の中途半端な男どもに対し「オマエらはミッチー級では無い」というメッセージを発しているのではないだろうか?
 
もしも、翌日及川ミッチーと打ち合わせがあると女性に知らせた場合、朝早くに起き、完璧な身支度を整えてから家を出てくるのではないだろうか?
携帯用の小さなコンパクトでは無く、家の三面鏡なり姿見で、化粧の完成具合や全身のコーディネート、漂わせる香りなど、完璧な状態で仕上げ、直前にはパウダールームで最終確認をして、それから打ち合わせに臨むのではないだろうか?
電車内で化粧をする女性たちにとって、それを見ている私のようなだらしのない男どもなど、石ころ同然に気にならない存在だという証左であろう。自分自身のねぐせ頭やハンパに伸びたヒゲを自戒しつつ、女性たちの気合の入ったウォーペイントに見惚れる他ない。
 
 
ついでになるが、もしも「電車で化粧をしている女なんてのはブスばかりだ!」と言う人がいるのなら、自分の写真を、そのメッセージと共にウェブ上にアップするといい。もしもミッチーのように美しければ、世界中の電車から化粧をする女性はいなくなるかもしれない。
 
まぁ、笑いのネタになるのがせいぜいだろう。