ネタバレ解説『ボーはおそれている』

漫画家、根本敬の代表作のひとつ『生きる 村田藤吉寡黙日記』。ただただひたすらに、寡黙で気弱で学も無く、子供がいるのに童貞で、信じられないほど不器用な男、村田藤吉と彼の家族が陰惨な目に遭い続けるだけの漫画である。 その「陰惨な目」も生半可では…

『ノセボ』効果の恐怖を体感!呪いと祈りが交錯するオカルトの世界

『ノセボ』鑑賞。タイトルの「ノセボ」とは偽薬がもたらす「プラシーボ」に相反する効果で、本来悪い効果が無いものを服用したのに、不安から悪い効果をもたらしてしまう事態を指す言葉だ。本作の劇中で繰り返し言及されるのは「祈り」や「呪い」など、日常…

大戦の雪辱戦としての『ゴジラ -1.0』

『ゴジラ -1.0』鑑賞。 本作の主題は「大戦の雪辱戦」であろう。 第二次世界大戦で日本は人命を捧げて気合で勝とう! という日本の伝統的精神論バカの考えた愚策で戦いに望み、大敗を喫する。 生き残った人々は焼け野原となった日本へ戻り、それでもなお生き…

サグいフォレスト・ガンプのハード・ノック・ライフ 〜奇妙な果実 ビリー・ホリデイ自伝〜

「奇妙な果実 ビリー・ホリデイ自伝」を読んだ。 私はブラックスプロイテーション映画に、ファンク、ソウル、ヒップホップとアメリカ黒人文化は好きなのだが、ジャズだけはほとんど通ってこなかった。 ビッグバンドのスウィングやビバップは耳に入ってくれば…

映画としては短いがムービーにしては長い『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』

『ザ・スーパーマリオブラザーズ・ムービー』鑑賞。 物語は、ブルックリンで負け犬と蔑まれる配管工のマリオが、迷い込んだ異世界でピーチ姫を助けながら自身の存在意義を見つけていく。という成長譚の王道展開である。 だが、本作にとって「物語」は必要最…

机上の王、現場に出る。『シン・仮面ライダー』

『シン・仮面ライダー』鑑賞。 庵野秀明主導による『シン・ゴジラ』『シン・ウルトラマン』に続く「シン」シリーズにして、ついに庵野本人が監督を務めている。 「シン」シリーズでは元々子供向けであるが故に、おおらかに設定された出自や展開を再構築する…

聖なるペテン師の腐敗撫で斬り大無双『ベネデッタ』

『ベネデッタ』鑑賞。 どの業界でもそうなのかもしれないが、私のいるデザイン業界では大なり小なり胡散臭い人物と付き合うハメになる。 とある大手玩具メーカーと仕事をしていた頃にいたデザイン事務所では、初老の仲介役がそうだった。大ヒットした玩具は…

2022年私的ベスト映画

1)RRR 文句無く完璧な超娯楽大作映画。優れた映画表現テクニックに、動く絵画のような画面創り。泣いた子もニッコニコになるような楽しいミュージカル・シーン。血が沸騰するようなアクション。娯楽の頂点。 2)マッド・ゴッド 表現力と技術力がハリウッド…

オコエのこと 〜「ねこホーダイ」はネコを助けるか?〜

昨晩。深夜遅く。寝室で寝ているとドアが開いてリビングの光のまぶしさで目を覚ましてしまった。ドアを開けたのは愛猫オコエ。寝室には入らず入口あたりで私をジッと見つめていた。「なあに?」と聞くとニャー!とひと鳴きして去っていった。 ……なんなのよ?…

人間皆殺し!『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』

『アバター:ウェイ・オブ・ウォーター』IMAXレーザー、HFR、3Dで鑑賞 2009年のヒット作『アバター』の続編。 13年の月日の経過は映像技術を格段に飛躍させ、当時ですでにハイエンドな映像美を魅せていたが、新作ではその解像度が更に上がっている。クリアな…

知恵の実を食い損ねた人たち『MEN 同じ顔の男たち』

『MEN 同じ顔の男たち』鑑賞。 ●創世記 パートナーの自殺を目の当たりにしたハーパーは気晴らしに2週間の期間限定で田舎暮らしを始める。 ハーパーは到着するなり庭に生える木からリンゴをもいで、そのまま食べる。 これは旧約聖書 創世記、アダムとイブの「…

「これは映画である」と強く思わせる『ブレット・トレイン』

TOKYO発の新幹線に乗り合わせた殺し屋たちが、伝説のヤクザ「白い死神」の息子と彼の身代金が入ったブリーフケースを巡り死闘を繰り広げる。 タイトルのブレット・トレイン「弾丸列車」とは特急列車のことだが、狭義で日本の新幹線のことを特に指す。 さて。…

『女神の継承』がよく解る解説

※オチまで含めた話を書いているので、鑑賞済みの人向け。解説的なやつです。 そもそも、プロデュースを勤めたナ・ホンジン監督は自身の『哭声/コクソン』の続編として本作を着想したそうだ。となれば、本作の軸にあるのは「神の沈黙」を含んだ「信心」とい…

正義の暴力 〜『ダウト〜あるカトリック学校で〜』シスター・アロイシスの暴走〜

映画『ダウト〜あるカトリック学校で〜』。 カトリック学校の校長シスター・アロイシスは校則を破った生徒には容赦無い罰を与えるほど厳格な信仰者であり、温和で進歩的な考えの教会の司祭フリン神父のことはもちろん疎ましく思っている。 そんな中、フリン…

成就しない愛 〜『セーラー服と機関銃』政の幸せ〜

いきがかり上、組員が4人しかいない弱小ヤクザの組長に収まった女子高生の星泉。しかし就任早々ドラッグをめぐるトラブルに巻き込まれ、組員2人が殺されてしまう。復讐の殴り込みに向かう相手事務所のエレベーターの中。おしっこしたいと言う政に帰ってもイ…

キングになったジョーカー 〜『ジョーカー』マレー・フランクリンの人生〜

映画『ジョーカー』。 ピエロのバイトで食い繋ぐ、売れないコメディアンのアーサー。人気コメディアンであるマレー・フランクリンの番組で、ダダ滑りする舞台での様子がビデオ放映されバカにされる。その上、さらにバカにし倒すため番組に呼ばれる。しかし「…

正義と快感 〜『セブン』ジョン・ドーの目的〜

映画『セブン』。 警察に出頭したジョン・ドーは、それまでの犯行を認めることと、まだ発見されていない犯行の自白を引き換えに、ミルズ刑事とサマセット刑事を伴い、何も無い荒野の真ん中へ向かう。その道々、ジョン・ドーは饒舌に犯行の意図を語っていく。…

階段のエスプリ 〜クリス・ロックとウィル・スミス〜

フランスの「エスプリ文化」。上手い言い回しや比喩表現で面と向かって嫌味を言う。という、いけすかない文化である。 言われた方もその場でエスプリを返せれば良いのだが、咄嗟に気の利いた言葉を思いつき絶妙なタイミングで放つのは至難の技だろう。 あぁ…

「よくわからない」という明確さ『MEMORIA メモリア』

パブロ・ピカソによる反戦をテーマにした「ゲルニカ」を何の前情報も無く鑑賞したら、多くの人はそのテーマ性には気づかないであろう。 とはいえ。圧倒的な存在感(デカイ!)と、特異な筆致の魅力は強く、何某かの強い印象を観る者に持たせるだろう。 「な…

パーソナルな物語『マトリックス レザレクションズ』

※以下、大オチについての話を書いています。未見の人はまずは鑑賞するのをオススメ。大きく毀誉褒貶がありはするものの観たところで死ぬワケじゃなし。2時間半あるので尻が痛くなる可能性はあるが、最近の映画館の椅子はよく出来ているよ。 ニック・ジョナス…

『シャン・チー テン・リングスの伝説』

『シャン・チー テン・リングスの伝説』鑑賞 ※映画のラストについてネタバレ書いています。まだシャン・チー観てないなら、まず劇場へ行ってください。面白いです。 MCUの新キャラ映画。 本作で目を惹くのは雄弁な「カンフー言語」だ。 映画序盤。秘密の村タ…

「サンシティ」と日本

1984年。イギリスのポップ/ロックミュージシャンたちにより、興されたチャリティ・プロジェクト「バンド・エイド」に端を発し、翌年にはアメリカの「USAフォー・アフリカ」が立ち上げられ、豪華ミュージシャンたちによるチャリティ祭りが、ある種「ブーム」…

もう少しまじめにやっておくべきだった

東京オリンピック・パラリンピックと言えば、オシャレあごヒゲ佐野研二郎である。 2020東京オリンピック・パラリンピック公式エンブレムのデザイナーとして脚光を浴びたが、その光は優しいものでは無かった。まず、そもそものオリ・パラエンブレムがベルギー…

ヘイ・ボーイ、ヘイ・ガール『ハンナ』

ケミカル・ブラザーズ1st『さらばダスト惑星』を初めて聞いた時、荒っぽいロックビートにガツガツと裏打ちが入るリズムと、生音やサイレン音をサンプリングしたザリザリとした触感が猥雑な世界をイメージさせ、心底ヤラれてしまった。 その彼らが音楽を担当…

幸せに、まだ慣れない

一昨年の冬からネコを家に迎え入れた。 お腹に白い差し色がある黒猫。女の子なので逞しく育って欲しいという願いも込めて『ブラック・パンサー』の屈強な戦士「オコエ」の名前をいただいた。 しかし、オコエはネコタワーの2階(40cmほどの高さ)から飛び降…

人がスターウォーズを愛することのどうしようもなさ『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』

『スター・ウォーズ スカイウォーカーの夜明け』を観た。 私は映画好きで、最近は忙しくてそれほど本数は観れていないが、それでも月に6〜7本は劇場で映画を観るし、好きが高じて映画ライターのようなこともしている。スター・ウォーズについてはギャラの…

海兵隊員は人を殺すために自分の良心を壊す

20年ほど前。今はもう無い吉祥寺のカレー屋で、突き出しとして出てくるキャベツの漬物が苦手だった。マズいワケでは無い。味としては漬物なのだが、たとえば「フルーツの匂いのする消しゴム」のような。確かにフルーツめいた甘い匂いはするが、食べたいとは…

ドリフト的横滑り映画『ZERO』

『ZERO』鑑賞。 「キング・オブ・ボリウッド」シャー・ルク・カーン最新作。本国でも12月21日に公開されたばかりで、日本では日本在住インド人向けの上映会を開催しているスペース・ボックスさんによる、英語字幕の上映。 ちなみに、スペース・ボックスさん…

映画的素養についての話

古澤健監督作『青夏 きみに恋した30日』は高校生の一夏の恋愛模様を描いた作品だ。 40代のおっさんは間違いなくマーケティングのメインターゲットの外側に追い出されているのだが、それでも楽しく観れるのはひとえに監督の映画的な素養であろう。 自然に溢れ…

ロックTシャツとズーランダーとアホ

「音楽を知らなくたって着ていいじゃん、ロックT」少し前の話。メタリカのアルバム「キル・エム・オール」(全員ぶっ殺す!)ジャケットをプリントしたTシャツ着用のイケメンモデルに、そんな見出しが躍るファッション誌へ、様々な声が挙がった。おおむね「…